大判例

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佐賀地方裁判所 昭和25年(行)3号 判決

原告 栗原太一 ほか一名

被告 佐賀県農業委員会

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は佐賀県小城郡南山村大字下熊川字原田六十五番田二反十三歩の買収計画に対する原告等の訴願につき被告が昭和二十五年三月一日なした右訴願棄却の裁決は之を取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として原告栗原秀一は原告栗原太一の長男で戸籍上昭和二十年十二月二日に原告太一が隠居し原告秀一が家督相続したことになつているが当時原告太一には隠居の意思は毛頭なく又隠居届もしたことがないのであつて、右の届は原告秀一の長男敏が勝手に原告太一の氏名印を冐用して佐賀県小城郡南山村役場戸籍吏に届出たもので、従つて前記隠居並びに家督相続は無効である。而して本件農地である小城郡南山村大字下熊川字原田六十五番田二反十三歩は原告太一の所有であるが、南山村農地委員会は昭和二十四年十一月二日本件農地は原告太一の前記隠居により原告秀一がこれを相続したものとなし、且つ原告秀一は当時農地所在地たる南山村に居住せず、いわゆる不在地主であると認めて該農地の買収計画を樹てた。そこで原告等はこれに対し異議申立をしたが却下されたので更に被告に対し訴願したが、被告は昭和二十五年三月一日右訴願棄却の裁決をなした。しかしながら前述の如く原告太一の隠居並びに原告秀一の家督相続は無効であるから、右買収計画樹立当時における本件農地の所有者は原告秀一ではなく原告太一である。そこでこれを原告秀一の所有として同人に対してなされた前記買収計画は違法である。仮に前記隠居が有効であり本件買収計画樹立当時において本件農地が原告秀一の所有であつたとしても、原告秀一は昭和二十四年七月佐賀県東松浦郡浜崎町県立虹の松原学園に勤務の為同地に移転する迄は本件農地の所在地たる南山村大字下熊川三二三番地に住所を有し、右大字下熊川の区域内になお田約一反一畝及び畑九畝を所有し、自らこれを耕作していたもので、右転住後はそれ迄同原告と同居していたる父たる原告太一及び二男敦、二女淑子等が引き続き右南山村に居住して現在に至る迄右農地の耕作を続けている上、原告秀一も近く退職して前住地に帰村する見込があるものであるから、自作農創設特別措置法第四條第三項の適用を受け、同法第三條の適用については同原告は在村者とみなされ、本件農地は買収の対象とならぬものである。しかるに同原告を不在地主と認めてなされた本件買収計画はとうてい違法たるを免れないものであると陳述し、被告の主張に対し、原告秀一と原告太一との間の佐賀地方裁判所昭和二十五年(タ)第五号隠居無効確認請求事件につき昭和二十七年一月二十四日原告の請求棄却の判決がなされ、これに対し控訴の提起なく右判決確定したこと、本件買収計画樹立当時に原告秀一の住所が東松浦郡浜崎町に在つたこと右当時本件農地を他人に小作させていたことはいずれも認めると述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として原告等の主張事実中原告栗原秀一が原告栗原太一の長男であること、原告等主張の日時に原告太一が隠居し原告秀一が家督相続した旨戸籍に記載されていること、南山村農地委員会が原告等主張の理由でその主張の日時に本件農地につき買収計画を樹てたこと、これに対し原告等が異議申立をしたが却下され、更に訴願したが原告等主張の日時に被告が右訴願棄却の裁決をしたことはいずれも認めるが原告太一の隠居が同原告の意思に基かざる無効のものであることは否認する。なお本件につき自作農創設特別措置法第四條第三項の適用ありとの原告主張事実はこれを争う。原告太一は本件において主張するのと同一理由により原告秀一を被告として、佐賀地方裁判所に隠居無効確認請求の訴を提起し、昭和二十五年(タ)第五号事件として係属したが、昭和二十七年一月二十四日原告の請求棄却の判決がなされ、これに対し控訴の提起なく右判決は確定したものである。本件買収計画樹立当時原告秀一は東松浦郡浜崎町二千百三十七番地に住所を有していた者であり、且つその当時本件農地はこれを他人に小作させていたものであるから、いわゆる不在地主の所有小作地として買収の対象となつたものであると述べた。(立証省略)

三、理  由

本件農地である小城郡南山村大字下熊川字原田六十五番田二反十三歩は元原告太一の所有であつたが、同原告は昭和二十年十二月二日隠居し、その長男たる原告秀一が家督相続をした旨戸籍に登載されていること、南山村農地委員会は昭和二十四年十一月二日本件農地は前記家督相続により原告秀一の所有に帰属したものと認め、且つ当時原告秀一は東松浦郡浜崎町に住所を有しており、なお当時本件農地はこれを他人に小作させていたため、いわゆる不在地主の所有小作地としてこれを買収すべきものと認定して買収計画を定めたこと、右買収計画に対し原告等は異議申立をしたが却下され、更に被告委員会に訴願したが、被告は昭和二十五年三月一日右訴願棄却の裁決をしたことは、いずれも当事者間に争がない。

原告等は原告太一の前記隠居は同原告の意思に基かず、その不知の間になされた隠居届により戸籍の記載がなされたものであつて、無効であると主張するけれども、同原告は右の理由を以て原告秀一を被告とし隠居無効確認請求の訴を提起したところ、該事件において原告の請求棄却の判決がなされ確定したことは当事者間に争のないところであるから、本訴において更に原告等が右隠居の無効を主張することは許されないものといわなければならない。従つて右隠居の無効を前提とし、本件農地は依然原告太一の所有に属するものとなし、原告秀一を所有者としてなされた本件買収計画の違法を云為する原告等の主張はこれを採用することはできない。

次に原告秀一は同原告が東松浦郡浜崎町に転住後も従前同原告と同居していた父太一や二男敦が南山村に居残り、従前に引き続き同村内において田一反一畝及び畑九畝を自作しており、且つ原告秀一も近く帰村の見込あるものであるから、自作農創設特別措置法第四條第三項により同原告は在村者とみなさるべきであると主張するから、この点について考えるに、右自作農創設特別措置法第四條第三項の規定は農地の所有者で自ら又は一定の親族の者が耕作の業務を営む者、即ち農業を以て一家の生計をたてる者につき特別の保護を加えようとする主旨のものであつて、零細な土地でも偶々耕作の事実さえあれば、その者までも同じく右保護の対象にしようとする趣旨のものではないと解するを相当とするところ、甲第七号証及び証人副島安次の証言並に原告秀一本人の供述中原告秀一及びその親族等の耕作面積に関する部分は、証人中山猛の証言に照し、にわかに信用し難く、右中山証人の証言によれば原告又はその親族が従前から耕作していた土地はその居住家屋の附近に在る合計一反位の畑と三畝位の田に過ぎず、且つ原告秀一は昭和十八年頃以来佐賀県立の不良児教化学園に勤務し、又その二男敦は発電所に勤務していた者で、右合計一反三畝位の耕作による収益は一家の生計の資として格別取り立てていうべき程のものではなかつた事実を認めることができる。他に右認定を左右するに足る証拠はない。右事実によれば本件につき自作農創設特別措置法第四条第三項を適用し、原告秀一をいわゆる在村者とみなすことは未だ無理のようである。そこで原告の右主張もこれを採用することはできない。

しからば本件農地の買収計画には何等違法の点はなく、右買収計画に対する訴願を棄却した被告の裁決にも他に違法として認めるべき点はないから、これが取消を求める原告等の本訴請求は失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 岩永金次郎 富川盛介 神保修蔵)

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